伊豆で江戸の尺八を聴く ― 虚無僧の会話

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江戸時代の古管尺八による演奏と研究を続けながらサイバー尺八!という前衛的な試みも・・という志村禅保さん(大阪芸大教授)と、以前にもこのブログに登場した尺八マスター、クリストファー遙盟さんとのデュオ・・じゃない、共演を伊豆の古民家で観てきた。伊豆市ではなく伊豆の国市というのがあると初めて知った。

江戸時代の尺八は、内側に漆塗りの処理他が施されておらず、要するに竹を切ったそのままの構造が残されているので、出てくる音が均一でない。こちらは尺八の歴史などまったく知らないので、現在の尺八が明治以降に「近代化」された・・というのか、ピッチを正確に、音色も斉一にされたものだと知ってびっくりした。尺八=素朴=昔から同じ、というのは「思い込み」だったというわけだ。なお、この種の「伝統に対する誤解」は様々な分野でしばしば起きるので注意しなければならない。

さて、志村さんによるトンデモなく長い尺八の演奏で始まったこの日の催しは、古曲を、新旧の尺八で、流派の異なる名人ふたりが密度濃く演奏するという希少性だけでなく、200年前に建てられた庄屋の家屋という、まるで虚無僧が会話できるような空間がすこぶる魅力的であった。演奏と場との出会い。要するに、一回性というやつだ。

江戸の尺八からは、倍音のそのまた倍音みたいな音・・というより「息の音」みたいなのがいっぱい出る。今の尺八だって、西洋楽器と比較すれば、思想的に違うのだろうが、江戸尺八は、当時、ひとつの宗派の虚無僧たちが生涯奏でた曲が僅か1~2曲だけだったという事実からして、音楽というよりお経を吹くようなものだ。だから、西洋的な「音楽」という概念は似合わない。しかしそれでも僕らの耳は「音楽として」聴こうとするので、ややこしい。リハーサルの時に遠くから聞こえた尺八の合奏は僕にはアイルランド音楽に聞こえたりした。

とにもかくにも、格別な体験をさせていただき、お誘いいただいた友人のAさんとそのご友人の皆様には感謝の一言。なにも手伝えずに申し訳ございませんでした。お詫びも意味も込めてブログで紹介させていただいた次第。

第3回地半アートプロジェクト

1 呼竹 受竹 よびたけ うけたけ      志村禅保 クリストファー遙盟

虚無僧たちが托鉢の際に、作法の曲として挨拶代わりに吹いた曲。この短い旋律で、どの地方の虚無僧であるかが分かったという。

2 明暗対山流本曲 瀧落 たきおち     志村禅保(照明作 三尺三寸地無し管)

今回の課題曲の一つ。伊豆の旭瀧をテーマに江戸時代に作られた曲。尺八の各流派に同名異曲が存在する。明暗対山流は素朴で、地無し管による演奏が水流の表現を際立たせる。

3 琴古流本曲 瀧落の曲 たきおとしのきょく

            クリストファー遙盟(山口四郎作 一尺八寸地有り管)

琴古流「瀧落の曲」は、きめ細かい装飾音と、優雅な旋律パターンの繰り返しにより構成されている。今回の地塗りの尺八による演奏は、音色のつやに注目したい。

4 琴古流本曲 鹿の遠音 しかのとおね     志村禅保 クリストファー遙盟

最も知られる尺八の曲の一つ。秋の深山に、遠く響きあう鹿の鳴き声の描写が秀逸。

*** 15分の休憩 ***

5 胎蔵界 たいぞうかい    クリストファー遙盟 (山口秋月作 二尺九寸地無し管)

クリストファー遙盟は若い時、高野山で胎蔵曼荼羅(大悲胎蔵生曼荼羅)を見て、感銘を受けた。中央に大日如来、回りに十二の院に分かれ無数の如来が放射線状に坐っている。それぞれの如来を「音」として考えると、曼荼羅は一つの曲を描いていると思いあたり、深い感動が押し寄せてきたという。

6 虚空 こくう 他  志村禅保(林虎月作 地無し古管「松風まつかぜ」、「虫の音」)

「虚空」は尺八古曲として最も大切にされている曲の一つ。作曲者とされる寄竹(きちく)は夢の中で妙音を聞き、曲を書きとめたと言われる。今回、江戸時代の古管尺八の名器により、竹の違いが楽しめる選曲となっている。

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この記事へのコメント

蒼い雪
2009年10月08日 01:25
Aさんのプロジェクトにはいつも感銘を受けて、おっしゃてるとおりの一回性にあこがれて、いつかいつか参加させていただきたいものだ、とうらやましく思いながら、まだ実現できてません。(悲)ブログ主さんがうらやましいです。。
2009年10月17日 20:00
お返事が遅れて恐縮です。

イベントとタイミングが合えば・・ですね。

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