GASA - GASA GIRL by Naomi Hirahara (2005)

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やらなきゃならないことがあるんだけれど、そっちのほうに気が向かない。教則DVDを見ながらフェンダーのジャズベースを触ったら指先が痛い。慣れないことはするもんじゃない。ウン十年前はもすこし弾けたと思うのだが、もはや老いぼれだ。しかし、突然、ニューヨーク--そこはカリフォルニアとは違う--に住む娘から呼ばれ、殺人事件に巻き込まれる70歳の庭師マス・アライに比べれば、老いぼれた・・なんて愚痴は言っていられない。

日系作家ナオミ・ヒラハラの記事は日系紙で読んだことがある。翻訳が、それも文庫で出たので買ってみたが、ディテールが細やかで、日系アメリカについて或る程度の情報を持っている読者にとっては非常に楽しめる「素人探偵もの」の小説になっている。粗筋はネット上に載っているので省略するが、日系二世の庭師マス・アライの「カリフォルニア生まれ」「広島育ち」「被爆者」「帰米」という設定からして、いかにも・・という(この感じ、わかるかな?)仕掛けになっている。しかし、設定がプロットに深く関与しないので、ちょっと安心した。日系作家が用いる「日系アメリカや日系アメリカ人社会で定着した日本語」は、マス・アライや彼の二世の友人たちの共通語として頻繁に引用されるものの、この小説はあくまで日系アメリカのハナシであり、一部を除いて、人種や歴史などの重みのあるテーマには触れられていない。(実は全くそうでもないのだが、それを説明してしまうとネタバレになるので控える)

一庭師として淡々と生きてきた--設定を考えると決して<淡々とした人生>ではないのだが--マス・アライが、難病の幼児を持つ実の娘にかけられた殺人事件の容疑をはらすために、積極的に動き出すところはカッコイイ。いや、マス・アライ自身はお世辞にもカッコイイとはいえない風貌の老いた日系の老人なのだが、マス・アライにはタグ・ヤマダやアジア系の女性弁護士など、頼りになる友人たちがいて、人情の厚いサポートをしてくれるのだ。素人探偵には協力を惜しまない友人たちが必要だ。

設定といえば、タグ・ヤマダは帰米のマスとは対照的な元442部隊の生き残りで、イタリア戦線での体験からキリスト教に改宗した珍しい二世ということになっている。小説は人物設定でその面白さの70%が決まるような気がする。映画の70%がシナリオで決まるのと同じだ。そういう意味で、この作品は、僕のような日系アメリカに興味のある読者にとって、普通の探偵小説以上に面白い。ある種のエスニック文学でもある。なおこの「70%」には根拠はない。単なる僕の印象です。(^^;)

エンターテイメント作品としてもよく出来ているし、庭師(ガーデナー)として、自然や日本庭園を見つめる主人公の視線もなかなかだ。著者は日本人的な自然観や思想をマス・アライ(著者の実父がモデルのようだ)に託しているようにみえる。更に、日系アメリカ人二世の辿った歴史や職業などが回想の形で物語に織り込まれているのも面白い。庭師もそうだが、花卉農家とか、ニュージャージー州にあったシーブルック農場(!!)まで登場するのには笑ってしまった。登場するだけではない。シーブルックは結構重要な役割を果たしているのだ。シーブルックが日系アメリカ人にとってどんな場所であったかはここでは触れないが、日系アメリカ人の歴史は西部や中西部だけでは語れないことを記しておきたい。

小説の舞台は大都市ニューヨークとその周辺だが、「探偵小説でたどる日系アメリカ人史」という趣(おもむき)もある。でも、そういうふうに読んでも著者のナオミ・ヒラハラ(元、羅府新報の英文紙面編集長、平原直美)は怒らないと思う。個人的には「加州毎日」についての短い描写に感激した。ただ一度だけ訪れただけだが、活字を拾って印刷していたあの古い社屋をまだ覚えている。おもえば、あれが僕の「米国の日本語新聞」との最初の遭遇であった。

日本人読者としては、伝説の日本人造園家タケオ・シオタ「塩田武雄」(実在の人物)の物語が印象に残った。僕はこのひとについてほとんど知らなかったが、戦前~戦中のニューヨークには、想像以上に様々な日本人が活躍していたのである。

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