軍次郎叔父さんの恋人 - Brenda Wong AokiとMark Izu

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彼らの子息であるKKのダンスもヒップホップしていてよかった。金曜日の夜、国際文化会館での公演は、短縮版だったものの、スクリプトの配布や日本語での解説もあり、わかりやすかった。僕はビデオで既に見ている。だからこの途方もない人種差別と排外主義の実話を知っていたが、当日初めて知った観客はさぞ驚いただろう。在米経験のある俳優、高橋りりすさんでさえ驚いていたのだから。(苦笑)

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ブレンダの大叔父にあたる青木軍次郎は、既にキリスト教の司祭として渡米していた実兄の勧めでサンフランシスコにやってくる。長野県にあった青木家は、隠れキリシタンであったとか、軍次郎は社会主義者で活動家だったから日本を離れたという説もあるとブレンダは説明していた。軍次郎は剣道の達人でもあった。実兄の教会の白人の娘さんであるヘレンと軍次郎は恋に落ちる。写真でもわかるように、軍次郎はスリムで知的でかっこいい。しかし、当時(20世紀初頭)においては、アジアからの移民が比較的多かったカリフォルニア州でさえ、白人と日本人が結婚するなどというのは暴挙に等しかった。

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当然、白人社会ではこのふたりの結婚に反対する、てな生やさしいもんじゃない、ふたりを罵倒し追放しようとする社会運動が起こる。ブレンダは、一度も会ったことのなかった106歳の大従兄弟からこの青木家の秘話を聞かされるのだが、「あなたはストーリー・テラーだから、軍次郎のことを話してあげるわ」と言った大従兄弟は偉い。それまで、青木家では、軍次郎のしたことは「青木家の恥」であり、写真を見せることさえしなかったという。大従兄弟のサダエは、16歳で信州から渡米した。いま生きている青木家のにんげんの中で、唯一、日本で生まれた人物であった。勿論、軍次郎の実話について知っている唯一の人物でもある。サダエはブレンダに語る。「あなたはストーリー・テラーだ。日本では琵琶法師が戦国の物語を語り聞かせたが、あなたのご主人は大きな琵琶を弾いている。だから、あなたはストーリー・テラーだ」と。マーク・イズの楽器はコントラバスである。おお、面白い。コントラバスを伴奏に物語を語るブレンダ・ウォン・アオキはアメリカで転生した琵琶法師なのである!

ブレンダ・ウォン・アオキによる軍次郎の探索が始まる。彼女は図書館に通い詰め、当時のカリフォルニア州(サクラメントやSF)他のありとあらゆる新聞のマイクロフィルムを読みあさる。その結果、軍次郎叔父さん(正確には大叔父)とヘレンは、追われるようにしてカリフォルニア州を去り、オレゴン州ポートランドに向かうが、そこでも、駅ではふたりの結婚に反対する白人たちが待っており、更に北上してワシントン州シアトルにたどりつき、たまたま市長が社会主義者だった(しかしこの市長もレイシストだったそうだ)おかげで、正式に結婚届けを出したことが判明した。ヘレンの結婚に賛成したヘレンの母親も離婚し、カリフォルニア州からシアトルへ移って娘夫婦と同居することとなる。軍次郎とヘレンとの間には5人(?)の子供ができるが、その子供たちに向けられる奇異な視線も強烈であった。また、軍次郎の唐突な死(剣道の練習中に死亡したという)も謎めいている。

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とにかく、白人は、白人がオリエンタルズと結婚すること自体を強烈に嫌悪していた。いや、嫌悪以前に、日本人を含む「オリエンタルズ」は人間の範疇に入っていなかったのだろう。このファミリー・ストーリーを脚色し、ブレンダとマークが自分たちの物語(ナラティブ)として公演し続けている(初演は90年代末)のには、この物語を次の世代に伝えていきたいという強い意志がある。馬鹿馬鹿しくなるほどの差別事件であるが、日系、中国系、スペイン系、スコットランド系の四つのルーツを持つブレンダ・ウォン・アオキには他人事ではないのだ。

なお、軍次郎の兄弟でブレンダの祖父は、この事件の影響で、同じ日系アメリカ人からも迫害され、SF日本町から追い出され、カリフォルニア州からユタ州に移動し、農業を始める。労働は過酷だったそうだが、ユタ州に住んだおかげで、後の日系人強制収容所には送られなかった。

会場で会った日系4世の女性(ブレンダの調査を手伝っているそうだ)が「私の先祖は当時SF日本町にいた。彼らが強制収容所に入れられたのはブレンダのお祖父さんをSFから追い出したバチだったのよ」と笑いながら話していた。いや、めちゃ面白いジョークだが、笑えないよ、これは。青木軍次郎とその親族は、白人からだけでなく、同胞からも見放されたのである。これはおさえておかないといけない。

以上の僕の説明には抜けている部分も少なくないと思う。皆さんからの訂正や追加をお願いしたい。なお、ブレンダのパフォーマンスの背後で演奏されたマーク・イズの正確でタイトなベースと、笙の静謐な響きには改めて感心させられた。まさにプロの技である。ベースと笙。この一見ありえないコンビネーションも、ブレンダ&マークの公演では、何の違和感もない。マークはジャズのベーシストとしても国際的に活躍している。アンソニー・ブラウンが率いるAsian American Orchestraでも彼のベースが聴ける。

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この記事へのコメント

etchan
2007年10月28日 23:52
いえいえ、ものすごく懇切丁寧に解説して頂いて有難うございます。おかげさまであたしの理解の範疇を超えていた部分や抜けていた部分(ばかりやないか、というのはさておき)が、ようやく補填されました。謝謝。
(付け加えさせて頂くとすれば、ポートランドの前にユージーンでも白人に待ち伏せされていたと言っておられた気が致します。)

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