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zoom RSS 『すばらしい墜落』 ハ・ジン 著 / 悲劇は喜劇、喜劇は悲劇

<<   作成日時 : 2012/01/03 01:09   >>

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2009年に出版されたハ・ジンの短編集"A GOOD FALL"の邦訳書がこれ。苦渋に満ちた、しかし、悲喜劇のような12の物語が収められている。場所はニューヨークのチャイナタウン「フラッシング」。大学院生や高学歴の登場人物が多いが、ブルーカラーや僧侶、中国から出てきた老母なども重要な役割を果たしている。中国生まれもいれば米国生まれもいる。名前を偽る謎の女性もいるし、名前も姓も変えてほしいと嘆願する中国系の子供たちも出てくる。

こう書くと、求心力のない、雑多な短編集かと思われるかもしれないが、そうではない。ひとつひとつの作品で描かれる個々人の「生の悩み/葛藤」と、その解決に費やされるある種滑稽でしかし切実な方法に、読者はため息をつくだろう。中国系ならでは・・という状況もあるし、どんな移民集団にも起きる問題もでてくるが、やはり、天安門事件で中国に帰れなくなり、米国定住を決めたハ・ジン自身の経験が見え隠れするし、中国色が濃い。

それから、登場人物が調理し、買い求め、食べる数々の食材と中国料理にも興味をひかれる。恋愛も結婚生活も子育ても嫁姑の問題もそれはそれは大変だが、中国人にとって、何を食べるか、食べられるものが米国にあるのか、というのは大きな問題である。ご飯とみそ汁と漬物があればほっとする日本人とは違い、中国は地域により、食べ物が異なる。そういう背景を考えながら読むと面白い。

訳者も指摘しているが、悲劇的なプロットが多いのに、なぜか読後感は悪くない。絶望的ではあるけれども、それぞれの短編に登場する人物は、真の意味での「絶望」はしていない。その行く末には大きな困難が待っているだろうとは思うけれど、同時に、どこかに「救い」があるのではないか、という「根拠のない期待」を「ほのめかす」ような書き方をハ・ジンが選んでいるような気がする。

中国の妹が自分の臓器を売ったお金でドイツ車を買う話「インターネットの呪縛」、インコと音楽の不思議な寓話「作曲家とインコ」、強烈な皮肉が効いた「美人」、母親と娘との三角関係をどうしようもできない院生の話「選択」、アメリカナイズする孫たちと祖父母との軋轢を淡々とまとめた「子は敵のごとし」、嫁と中国から来た姑との壮絶な摩擦に戸惑う息子の話「板ばさみ」、悲哀そのものの「恥辱」、コメディー映画のような「英文科教授」、個人主義の中国人らしい「年金制度」、「こんなはずじゃあなかったのに・・」という「偽装結婚」の末路を鋭く描写した「かりそめの愛」、出口のない生活から逃げ出す方法を見つけた若者ふたりが決意する「しだれ桜のある家」、そして、なんの報酬も受け取れず中国へ送還されることを拒絶し、自殺を図る僧侶をアメリカ的な善意が救うという喜劇のような「すばらしい墜落」。

いずれの短編も、過不足なく人物が書きこまれており、チャイナタウン独特の雰囲気や町に漂う匂いまで、行間から漂ってくる・・ような、トリビアな部分を省かない、無駄のないハ・ジンの筆さばきが素晴らしい。

長編のラブストーリー『あの日、パナマホテルで』とは全然違うけれど、ハ・ジンのこの本も、アジア系アメリカのリアリティを提示する貴重な作品である。先述したように、中国系の高学歴(インテリ)の登場人物が多いのだが、中国とは違い、米国では、修士や博士の学位を取得しても、簡単に収入を得る職業に就くことは至難の技なのだ。そういう慣れない社会でサバイバルを試みる中国系の生き方は、多かれ少なかれ、他のアジア系の生き方のモデルとなるものなのだろう。

これも、お正月の読書に最適のアジア系アメリカ文学。書店に走れ!(笑)

『すばらしい墜落』 ハ・ジン (白水社) 立石光子訳 2011年

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