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zoom RSS あの日、パナマホテルで / 「いたいけ」な恋

<<   作成日時 : 2011/12/30 23:37   >>

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シアトルの航空会社を早期退職し病の妻を看取ったヘンリーは、絶望の淵にいた。そんなとき、戦時中収容所に移送されることになった日系人が密かに運び込んだ荷物が地下から40年ぶりに発見され、騒然としているホテル横を通りかかる。目に飛び込んできた鯉の絵の傘…ケイコのだ!脳裡には、戦争のため離ればなれになった初恋の日系少女の面影が鮮やかに蘇り…。全米110万部のベストセラー。2010年アジア・太平洋文学賞受賞。【「Book」データベースより】

文庫本で出たばかりの長編小説。上記の内容なので読まなきゃいられないし、おまけに、訳者から一冊頂戴してしまったので(前田一平さん、ありがとうございます!)今日の夕刻から一気に読み切った。まず、波乱万丈のストーリー展開と視覚的イメージを残す描写が憎い。もちろん、この作品は「大ラブストーリー」なので――収容所などの背景に引き付けられるとはいえ――主人公の「ヘンリー」(中国系)と「ケイコ」(日系)という少年と少女が中心だけれども、中国人の話であり、日本人の話であり、シアトルのパナマホテルの話であり、ジャズの話であり、アメリカ合衆国の話であり、そして、親子の話であり、家族の話でもある。決して「特殊な状況を描いた作品」ではない。だからこそ、読者は自分を行間に投影できるのだ。私も、投影してしまった。(笑)

これら多くのレイヤー(層)を持つからこそ、小説に厚みがある。実際、12〜13歳の少年と少女の物語としては「出来過ぎている」し、意地悪な言い方をすれば、「ベストセラー狙い」の「あざとさ」もないではないが、そういう疑念など吹き飛ばすほどのエネルギーが「ヘンリー」と「ケイコ」にあるのだ。「悩めるヘンリー」に「ポジティブなケイコ」という、Boy Meets Girl風の「小説の王道」を踏まえた上で、登場人物の人間関係と時代背景をここまで微細に描写しえた作者には敬意を表したい。中国系移民(史)、日系移民、シアトルの日本町の入念なリサーチには、中国系の血を引く地元出身者という「地の利」だけでは説明できない著者の熱意が感じられる。

更に、サキソフォン奏者や「希少なレコード」にまつわる数奇な伏線が、ジャズ好きな私にはたまらない。そう、シアトルはジャズ、ロック、クラシックなど、いずれのジャンルも盛んな「音楽の町」でもあるのだ。実際、戦前に黒人が演奏していたシアトルのジャズ・クラブには、日系人が客として出入りしていたし、日系人が経営するお店の地下にもクラブがあったという記事を、シアトルの新聞で読んだことがある。だから、この作品のプロットには説得力がある。

このブログを訪れる皆さんは、多かれ少なかれ、アメリカ合衆国のアジア系移民やその社会、歴史、地理、文化等々に興味を持っておられると思う。そういう皆さんの正月休みの読書にもってこいのReadableでEnjoyableな作品だ。訳文も読みやすく、ドキドキする。書店へ走れ!(笑)

Hotel on the Corner of Bitter and Sweet by Jamie Ford

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コメント(10件)

内 容 ニックネーム/日時
Hotel on the Corner of Bitter and Sweet(それにしても邦題が・・・)はAmazonで知り、春先にちょこちょこと読んでおりました。語学力&理解力の無さと日頃の疲労もあり、きちんと読み直しておらず、気の利いたコメントが今出来ないのがとても残念(で悔しいw)。
なお、パナマホテルのサイトは以下。写真をご覧になるとより深く本を味わえると思いまする。
http://www.panamahotel.net/photos.htm
偏頭痛あがりのetchan;
2011/12/31 00:19
Hotel〜(邦訳はまるで30年前の映画のようだが…)はこの春先に、ちょこちょこと読んでおりましたが、語学力&理解力の無さ(&日頃の眼精疲労)もあり、読み直しもしていないので今気の利いたコメントを出来ず本当に残念(&悔しいw)。若干、年度関連で疑問が沸いたりしていたので、邦訳もそのうち入手しようかと思います。
なお、パナマホテルのサイトには内部(銭湯ツアー含む)写真も紹介されているので、是非ご覧下され。より本がいっそう深く味わえるかと思いまする。
etchan(偏頭痛中;
2011/12/31 00:24
FYI:
http://www.panamahotel.net/photos.htm
etchan
2011/12/31 00:26
FYI: www.panamahotel.net/photos.htm
etchan
2011/12/31 00:29
>>etchan

サイトの紹介ありがとうございます。広東語がふんだんに出てくるので、訳者は大変だったろうと思います。また、強制収容前後の描写がとてもリアル。
asianimprov
2011/12/31 10:23
こちらこそタイムリーなトピックスを有難うございます・・と言いつつも、あらら。できればこのコメントを含め、1番目、4番目を削除して頂ければ若干すっきりするかと存じます。何故だか投稿時に何回か、スパム扱いされ、受け付けてくれなかったんです。少々へこみつつ、何回かトライした結果が↑こうなったみたいです;
etchan
2012/01/03 01:52
このBiglobeのブログでは、URLを張り付けたコメントはすべてスパムとして扱われるようです。でも、結局、入力されていますから、選択して検索すればパナマホテルのサイトに行けます。ご協力ありがとさんでした。( ^^) _U~~
asianimprov
2012/01/05 19:33
こちらでこの著作の存在を知り、購入して一気に読み終わりました。西海岸の日系人の悲惨な体験を同じアジア移民の、しかも本国では日本と敵対する中国の移民二世の目を通して語られるという興味深い内容でした。 恋物語はともかく、当時のシアトルの世相と華僑世界の描写は体験した著者ならではのリアリティーを以て読者に迫ります。
作品にははっきりと書いてありませんがヘンリーの一族はおそらく「客家」の一族ですね。

まだ若い作家ですから、重箱の隅をつつけば昔の中国移民社会を描くのに、えっ?と思う描写が時々ありましたがそれはご愛嬌。シアトルは日系移民には本当に縁の深い街ですね。他の小説では工藤ゆき主演で映画化もされた「ヒマラヤ杉に降る雪(Snow Falling on Cedar)」もシアトルが舞台でしたね。パナマホテルは現在も実在することは地図で確認しました。しかも地下にはまだトランクが置いてあるそうですが、公開はしているんでしょうかね。 10年近く前に一度だけシアトルを訪れた時は奇しくもヘンリーが技術者であったという某航空機製造社を訪ねる用件でした。宿泊したホテルがパナマホテルに意外に近いのに驚きました。残念。
よい作品をご紹介いただきました。
Hawkeye
2012/01/21 18:17
横レスですみませんが、Hawkeye様。トランクはカフェ(ホテル1F、お茶類充実)の床下からほのかに見えるようになっています。銭湯跡を含め地下のものは、あらかじめツアーの予約が必要なので、サイトに紹介されているアドレスに熱意をこめたメールを送ってみるのをお薦めします。ホテルも泊まれますが(居住者もいます)、浴衣&ビーチサンダルは用意されているもののTVや時計はなく、お風呂やトイレも共用。けれど昔のゴールドラッシュにわいていた頃にタイムスリップしたような、不思議な体験ができます。
またもや通りすがりのetchan
2012/01/23 01:45
Hawkeye大尉殿

>よい作品をご紹介いただきました。

そう言っていただき嬉しいです。

日本人がアジア系アメリカ関係の文学を読む事の面白さの一つは、そこに「もう一つのアメリカ」と「もう一つのアジア」が混在していることだろうと思います。この小説のように、中国系であることと日系であることが、アメリカ合衆国とそれぞれの国との関係に大きく左右された時代を描くことにより、アメリカ合衆国とは?アメリカ人とは?という問いかけを作者は読者に投げかけているようです。

同時に、中国人を、また、日本人を祖先にもつという事の意味や、白人多数派、黒人や中南米系などとの相互関係が小説の中に織り込まれている。

僕は、サックス吹きの黒人や学校の食堂を仕切る女性が気に入りました。白人が悪者扱いされていて、ちょっと話ができすぎていますけど、それもまた良し。(笑)
asianimprov
2012/01/25 19:16

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